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「ポリヴェーガル理論」から考える、マインドフルネスと自律神経の関係性

ポリヴェーガル理論を3色で色分けしたイラスト

「ポリヴェーガル理論」とは1994年にアメリカの心理学者・神経科学者であるスティーブン・ポージャス博士が提唱した自律神経に関する理論ですが、実はマインドフルネスを理解するためのヒントがたくさん詰まっています。

今回は一般社団法人DMW理事であり、臨床心理士・公認心理士の吉里恒昭先生によるスペシャルクラス「〜ポリヴェーガル理論〜マインドフルネス実践者のための最新自律神経理論を知ろう」を紹介します。ポリヴェーガル理論の概要と、マインドフルネスとの関係性についてわかりやすく解説していきます。

副交感神経の中にある、2種類の迷走神経とは?

ポリヴェーガル理論の図

脳と身体中の臓器をつないでいる自律神経。“自律”と書くとおり、自分の意思とは関係なく動いている神経ですが、この自律神経は「交感神経と副交感神経の2つからなっている」という話はよく聞くかと思います。

簡単にいうと、交感神経は「戦う場面だ!」と体が感じたときに動く神経で、アクセルと表現したりします。対して、副交感神経はアクセルに対してブレーキといういい方をするように、主にリラックスしているときに優位に動く自律神経です。大雑把にいうと、無意識のうちに体がアクセルとブレーキを判断して調整しているということです。

ポリヴェーガル理論の提唱者であるポージャス博士は、副交感神経の中にある「迷走神経」に着目しました。迷走神経というのは脳から心臓、肺、腸など体中に文字通り迷走している神経で、臓器から脳への連絡=体の声を脳に伝えることが主な役割です。

さらにこの「迷走神経」には2種類あり、ポージャス博士は迷走神経を進化の過程を元に2種類に分けました。具体的には爬虫類の迷走神経と哺乳類に特有の迷走神経の2つに群分けしていったのです。

背側迷走神経と腹側迷走神経の系統発生、機能、分布場所を整理した表
出典:一般社団法人DMW 臨床心理士・公認心理士 吉里恒昭

哺乳類は群れを作って生きるため、コミュニケーションを取りながら集団で生きていくことで進化してきました。それによって、感情の表現、顔の表情や声、言葉、おっぱいを吸う力など、簡単にいうと顔まわりの神経が発達しています。対して、爬虫類にはそういった神経は必要ないということがわかったそうです。

1.魚や爬虫類が生まれた古代からずっとある、休息、ブレーキ系の神経群(背側迷走神経複合体)

2.哺乳類から膨らんだ、表情や群れに使われる神経群(腹側迷走神経複合体

と、迷走神経を2種類に分けたのがポージェス博士です。

ポリヴェーガルの考え方は3色に分けて考えるとわかりやすい

ポリヴェーガル理論を3色に色分けして説明した図
出典:一般社団法人DMW 臨床心理士・公認心理士 吉里恒昭

ポージェス博士自体は臨床科学の専門家ではなかったものの、トラウマ臨床の専門家たちが彼の理論は臨床に役立つのではないかと興味を持ち、ポリヴェーガル理論は広がっていきました。ポリヴェーガル理論はとても難解ですが、交感神経、腹側迷走神経、背側迷走神経の3色で分けて考えるとわかりやすいかと思います。

赤は交感神経、つまり戦う神経です。心臓がドキドキしていて、腎臓の上の方にある副腎からコルチゾールやアドレナリンといった、体をがんばらせるホルモンが勝手に出ている状態です。

ところが、赤の状態は長く続かないので、青の背側迷走神経複合体が働いて体にブレーキをかけて休息の方向に持っていこうとします。疲れたから眠りたい、そして寝たら元気になって緑の神経が復活していきます。

真ん中の緑はチューニングといわれています。赤でもいいし青でもいいし、どこでも動けるような揺らぎ、余裕といった状態です。

1.赤(交感神経)

交感神経が優位なときの身体、考え、感情の状態を説明した図
出典:一般社団法人DMW 臨床心理士・公認心理士 吉里恒昭

それぞれの神経についてもう少し詳しく見ていきましょう。

赤は戦うときの神経なので、「ここは危険だぞ、危ないぞ、締切守らないといけないぞ」などと感じたときは、体はドキドキしたり、視野が狭くなって力んでしまったり、歯を噛み締めてしまったりしますよね。

内臓の活動も抑制され、ごはんを食べている場合ではないので胃腸の活動が減り、胃酸も出にくくなります。呼吸は浅く早くなって、ときには震えたり、カッと熱くなるため体温を調整しようと汗が出たり眉間にシワが寄ったりと、体が勝手にそういう状態になります。

体がそのような状態になってくると「〜すべき」「〜はだめ、危ない」「完璧じゃないとだめ」といった考えも勝手に出てきます。心理学で自動思考といったりもしますが、このような状態になっているときは、感情もイライラしたりムキになったり早く逃げたいと思ったりして、焦燥感や、ソワソワする気持ちが生じます。


自動思考についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

2.青(背側迷走神経複合体)

背側迷走神経が優位なときの身体、考え、感情の状態を説明した図
出典:一般社団法人DMW 臨床心理士・公認心理士 吉里恒昭

一方、青(背側迷走神経複合体)はブレーキの役割を示すので、身体的には気だるい、力が入らない、寒い、血圧が低い感じといった感覚になります。

体としては生産的な活動をしたくないので気力が低下し、見えにくい・聞こえにくい、貧血で倒れるなどといった状態になり、考え方も「もうだめだ」「やる気がない」「しても意味がない」といった感情や、「感動しない」「消えてなくなりたい」「迷惑をかけてしまった」というネガティブな感情に勝手になってしまいます。

「このような考えや感情になっているときは青の神経が優位になっているんだ」と自分で気づくことができるといいのですが、なかなかマインドフルな状態になりにくい方は、気づきまで至らないかもしれません。

3.緑(腹側迷走神経複合体)

腹側迷走神経が優位なときの身体、考え、感情の状態を説明した図
出典:一般社団法人DMW 臨床心理士・公認心理士 吉里恒昭

ここがマインドフルネスでは大事なところですが、緑の神経は哺乳類の神経なので「みんなとつながっている」ときの感覚で、緑の神経が優位なときは安心安全感を覚えます。

さまざまな顔の神経と腹側迷走神経が関連しているため、安心安全を感じているときは目が輝いたり笑顔になったりします。例えば動物や人間の赤ちゃんを見た瞬間に目尻が下がったり口角が上がったりするのも、このためです。

緑の神経が動いているときは考え方も「どんなことが起こるかな」「そのままでいいよ」「感謝、おかげさま」といったポジティブなものになります。

マインドフルネスとは「赤にも青にもなれる」と揺らいでいる緑の状態

マインドフルネスと緑の状態を説明した資料
出典:一般社団法人DMW 臨床心理士・公認心理士 吉里恒昭

「赤にもなれるし青にもなれるとゆらいでいる状態」が緑の状態であり、これがマインドフルネスな状態です。

緑の状態が少なくて、赤か青かどちらかを行ったり来たりしている状態のときは、何か安心できるものとつながれていない(=緑がない)ため余裕がなく、つらい状態になってしまいます。瞑想などを通してマインドフルネスを経験していくと、「今ここ」に意識を向ける練習をしていくため、緑の神経、つまりつながっていく神経が復活してくるはずです。

実際ポージェス博士も文献の中で、「マインドフルネスの成立には腹側迷走神経複合体がきちんと働いていることが大事なのではないか?」と表現しているそうです。

日本におけるポリヴェーガル理論の第一人者である津田真人先生は、緑の状態を「中動体」と表現しています。つまり、能動的であり受動的でもあるともいえるし、能動的でもないし受動的でもないという感覚、自分の力であるようで自分の力でないといった感覚が、緑の状態です。

マインドフルネス経験者の方はなんとなく感じたことがあるかもしれませんが、何か大きなものにつながっていて、今ここにいさせてもらっているような感覚、スポーツでゾーンに入っている感覚なども緑の状態といえます。


マインドフルネスとは何かをまず知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

ブレンドの状態を説明した図
出典:一般社団法人DMW 臨床心理士・公認心理士 吉里恒昭

そして、緑の感覚がわかってくると、ブレンドという概念もわかってきます。

緑と赤のブレンド

緑と赤両方の神経が動いているときは、安心して活動できている状態です。ポージェス博士はこの感覚を「遊び」と表現していますが、例えばスポーツなどルールの中で安心した状態でゲームをするときや、ライオンや猫の赤ちゃんがじゃれあって甘噛みしたりしている状態を指します。

緑と青のブレンド

安心して止まれている状態が緑青の状態です。そこには安らぎや癒しがあり、ポージェス博士はこれを「愛」と呼んでいます。「無条件にあるがままでOK」という感覚になっているときが緑青の状態です。

誰かとつながりながら瞑想することで、緑の状態をより感じやすくなる

「戦うモードになったりスローダウンすることは、進化の過程で人類が身につけてきた自然な反応である」というポリヴェーガル理論を知ることで、プレッシャーを感じたり不安になったりつい感情的になったときに、自分を責めたり「自分はダメなんだ」と落ち込むのではなく、これは「自分で自分の体と心を守ろうとしている自然な反応なのだ」と捉えられるようになるのではないでしょうか?

また、複数で瞑想をすると、一人のときよりも深まるという体験をされている方もいらっしゃるかもしれません。みんなで一緒に瞑想することで、緑の神経、つまりつながりの神経が働き、よりマインドフルになれるという効果もあります。

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監修者・講師紹介:吉里 恒昭さん

吉里 恒昭さん写真

臨床心理士・公認心理師
沖縄県出身、大分県在住。琉球大学大学院教育学研究科修士課程修了(教育学修士)、大分大学大学院医学系研究科博士課程修了(医学博士)。

心療内科・精神科の現場でカウンセラーとして20年以上の臨床経験を持つ。うつ病、依存症、PTSD(トラウマ)、などのさまざまなメンタル疾患を専門に行っている。複数の医療機関にて勤務しており、さらに刑務所、医学部、看護学校などでも相談・教育活動をしている。医療、教育、司法の複数の分野にて活動をおこなっている。