「みたて」の世界とマインドフルネス
「みたて」という言葉をご存じですか?日本に昔からある言葉ですが、日常的に使う人は少ないかもしれません。
今回はアスリート陶芸家の山田翔太さんによるスペシャルクラス「『みたて』の世界とマインドフルネス」の内容を紹介します。
この記事では「みたて」とマインドフルネスとの共通点を解説しつつ、「みたて」というものの見方を通して日々の生活を豊かにするためのヒントをご紹介します。
マインドフルネスとは何かをまず知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
「みたて」とは対象を他のものになぞらえて表現する、芸術表現の一技法
例えば、ここにひとつの茶碗があるとします。茶碗を見て、パッと見えたもの、頭に浮かんだものを自由に表現していくこと。簡単にいうと、これが「みたて」です。「自分にはこう見える」と頭に浮かんだことを言葉として表に出すことで、ひとつの表現の形になるのです。これは日本的な感覚で、英語やフランス語など、他の言語で「みたて」を表現しようとしてもちょうどいい言葉がなかなか見つからないそうです。
「みたて」は元々は中国の漢詩から日本に入ってきて、和歌の中で使われるようになり、さらに茶の湯の世界で芸術表現としてより洗練されたものになっていきました。
人はアート作品を鑑賞をするとき、実は見ている時間よりも読んでいる時間の方が長い!?
美術館でアート作品を見るとき、ひとつの作品の前に滞在する平均時間は約1分といわれているそうです。その1分の中で作品を見ている時間は約10秒、残りの約50秒はキャプションと呼ばれる解説文を読んでいる時間なんだそうです。これでは作品を見に来たはずなのに、実はきちんと作品と対峙できていないことになってしまいますよね。
作品に付いているキャプションはいわば答えで、キャプションを見ればこの作品がどんな作品かある程度わかってしまう。この「わかる」ということは固定概念であり、先入観なので、先入観がある上で作品を見てしまうと、どうしてもキャプションを書いた人の見え方に沿って見るようになってしまうのです。
鑑賞する上で、「絵画」と「茶碗」の違いとは?
絵画は壁に固定されていて一方向から見ることがほとんどで、鑑賞者にとっての正面が決まっています。対して茶碗の場合は、自分の手の中でぐるぐると回しながら、360度いろんな角度から見ることができます。「自分はこの角度が美しい」と自分で決めることができるのです。鑑賞者が自分自身で正面を決められることが、絵画との大きな違いではないでしょうか?
さまざまな角度から見ることができることが茶碗の面白さであり、そこが「みたて」につながるといえます。
作品と向き合い、自分と向き合うこと=マインドフルネス
何を描いているのか一見してよくわからない絵画を「抽象画」といい、反対に写実的で、その景色をきれいに写し取ったような絵画を「具象画」といいますが、茶碗の世界でも抽象度が高いものと具象度が高いものがあります。
抽象とは余白のことであり、見る人の経験や美意識が現れるところになります。マインドフルネスの練習でも先入観や固定概念に捉われず、自分自身と向き合っていきますが、絵画や茶碗の抽象的な部分、つまり余白の部分と向き合うことはまさに自分と向き合うことであり、マインドフルネスにとても近い感覚があるのではないでしょうか?
外側からのバイアスがなく、その作品が何を伝えているのか自分なりに徹底的に向き合うことは、結果的に自分と向き合うことになる。つまり「みたて」は「自分にだけ見える世界」を見立てることであり、これがマインドフルネスともつながっているのです。
「みたて」は正解のない世界。人と違うことは当たり前のこと
自分自身はアーティストではないし、作品を作ることはできないしクリエイティブではないという方も多いかもしれません。しかし、作り手だけがクリエイティブで鑑賞者はクリエイティブではないという構図は本当に正しいのでしょうか?
例えばひとつの茶碗を見て、人それぞれいろんな答えが出てくることは、それだけで十分クリエイティブなこと。「問いを立てる作り手」と「それを見て答えを導いていく鑑賞者」は実は対等な関係であり、ひとつの作品を作っていく上で共作ともいえます。
茶碗を手に取り、ぐるぐると回しながら自分なりに見えるものを見つけること。これは正解のない世界であり、ひとつとして同じ回答はありません。この「人と違う視点のずれ」、つまり自分なりの「みたて」を楽しめるようになると、もっと世の中は平和に、豊かになるのではないでしょうか?「自分が見えた世界は美しい、でもあなたの世界も美しい」という考え方が広がると、対立したり相手を潰そうとはしなくなるはずです。
まとめ|「みたて」の世界とマインドフルネス
今回は茶道の「みたて」をテーマに、マインドフルネスとの共通点を解説しました。
- 「みたて」は、茶の湯の世界で芸術表現として洗練されてきた一技法
- 茶碗は「この角度が美しい」と鑑賞者が“正面”を決められる
- 「みたて」は外側からのバイアスなく「自分にだけ見える世界」を見立てること
- 先入観や固定概念に捉われず、自分自身と向き合う点がマインドフルネスと通ずる
このように、お茶の世界の「みたて」というものの見方は、自分の内側と向き合うマインドフルネスと通じるものがあります。
今までとは違った視点で茶道やマインドフルネスを捉えるきっかけになったのではないでしょうか。
記事を読んでマインドフルネスに興味が湧いてきたものの、どうやって始めたらいいのかわからないという方もご安心ください。
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監修者・講師紹介:山田 翔太さん
アスリート陶芸家として活動。10代から陶芸を始め、都内にて作陶。遠州流茶道で茶の湯の世界を学ぶ。
茶道具を中心としたうつわを制作し、銀座靖山画廊所属、百貨店で個展を開催。ラグビー、トライアスロン、ヨガなどのスポーツを通して感じた「美意識」を、うつわに表現する独自の世界観を持ち、lululemonのアンバサダーとして、スポーツの世界とアートの世界をつなぐ活動をしている。フランスなど海外でも個展や茶会を開催。