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自治体と考える産後うつ支援。課題と可能性に迫るセミナーを開催!

自治体イベントレポート

産後うつになる割合は、およそ10人に1人。社会課題の一つとして認識されつつある「産後うつ」に対してさまざまな取り組みが展開されるなかで、いま本当に求められている産後ケアとはどのような支援なのでしょうか。

2025年7月4日、MELONのプログラムを産後ケア・産後うつ対策としてご導入いただいている福岡県大木町と、周産期のメンタルヘルスケアを専門とされる信州大学の村上寛医師とともに、オンランセミナー「いま、本当に求められている産後ケアとは?」を開催しました。

当日は、東北から沖縄まで全国各地より、自治体関係者の皆様や産後うつケアに関心を寄せる多くの関係者の方々にご参加いただき、産後うつケアに関する気づきや対話が生まれる、充実した時間となりました。

今回は、当日の講演内容をもとに、産後うつ支援の最前線と、その解決に向けた具体的な取り組みをご紹介します。

村上寛医師が語る「自治体が果たすべき周産期ケアの役割と可能性」

村上先生スライド

自治体の方にとって、支援者としてどうやって産後うつを早期に発見し、いち早く介入できるかは重要な課題です。

村上医師は、現場では「目の前の妊産婦が、もしかしたら死を考えているかもしれない。その可能性を常に意識して向き合う必要があります」と強調します。

“何かおかしい”がセーフティーネットになる

現在、多くの自治体では「エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)」が、スクリーニングツールとして活用されています。産後うつの早期発見に一定の効果がある一方で、村上医師は「点数が低くても、現場では“何かがおかしい”と感じるケースがある」と指摘します。

感情の表し方は、生育環境によって異なるため、EPDSの数値だけで、妊産婦の「心のしんどさ」をすべて把握することはできません。ときには、保健師や助産師が、表情の変化や何気ない言動からリスクの兆しを読み取るしかない場面もあるといいます。

一方で、違和感に気がついたとしても、他人の心の状態を言葉にすることは簡単ではありません。だからこそ、「“何かおかしい”という感覚を言語化し、チームで共有してアセスメントにつなげていくことが重要です」。

3つの“切れ目”と、支援を届かせるための視点

また、支援の現場には3つの「切れ目」があるといいます。

・行政のチェックシート(制度的な限界)
・妊娠期から産後・育児期への移行といった時間軸での切れ目
・「母子支援」と「児童支援」の支援領域のすき間

どれだけアセスメントが精密化しても、必ずこぼれ落ちる人はいます。その事実を前提にしたうえで、「切れ目から抜け落ちる人がいることを認識することが大切です」と村上医師は続けます。

産後うつ対策としては、「高リスクの人への集中支援(ハイリスクアプローチ)」だけでなく、地域の母集団全体のリスクを引き下げる「ポピュレーションアプローチ」の充実が重要であると指摘しています。

福岡県大木町の実践に学ぶ「新たな子育て支援のかたち」

大木町石橋さんスライド

福岡県大木町では、町内に産婦人科がないという状況のなか、充実した産後ケアの実現に向けて、独自の取り組みを展開してきました。

母子手帳交付時にジェノグラム(家族構成図)を作成したり、不安時にすぐ連絡できる公用携帯を設置するなど、ハイリスクなケースに対して丁寧な支援(ハイリスクアプローチ)を行ってきました。

いま本当に必要な産後ケアや子育て支援とは

そのなかで見えてきたのは、「自分のことを後回しにし、弱音を見せない現代の母親」の存在です。一律の支援では、そうした母親たちの声なき声をすくい上げることはできないと気がついたといいます。

一方で、「支援を切れ目なく行うことは重要だが、常に伴走することはできない」という葛藤も抱えていました。

そうしたなかで、町が実施した子育て世代へのニーズ調査では、大木町で子育てをしたいと考えるのは未就学児の親が多いこと、そして中学生以下の子を持つ親の7割が精神的な不調を抱えていることが明らかになりました。

このことから、産後ケアは「出産後の一時的な支援」にとどまるのではなく、「支援を人生全体の中で捉える視点」が必要であり、「子育て世代に継続的に関われる支援が必要」との結論に至りました。

セルフケア力の向上という新たなポピュレーションアプローチ

そこで大木町では、産後ケアに従来の「身体的な支援」に加えて、妊産婦や町内で子育てをする親を対象に、MELONのセルフケアプログラムを提供し、セルフケア力の向上に注力することを決めました。

そもそも産後ケアは、こども家庭庁において「母親自身がセルフケア能力を育み、母子とその家族が、健やかな育児ができるよう支援することを目的(※)」と規定されています。

つまり、産前から予防的な支援を行い、レジリエンス(心の回復力)を高めておくことで、予期せぬ出来事が起こりやすい子育て期にも、しなやかに対応できる力を養うことにつながります。また、村上医師の講演でも指摘されたように、ポピュレーションアプローチ(集団全体に向けた支援)も、産後うつを減らすためには重要な視点です。

もともと、宿泊型の産後ケアを町内で提供できないという制約から始まった大木町の取り組みですが、その過程でハイリスクな母親との関わりや多くの対話を通じて、支援の本質に向き合い続けてきました。

どれだけ支援を整えても、それが届かない人がいる現実に直面し、“支援の切れ目”という壁を痛感しました。だからこそ、ポピュレーションアプローチとしての「セルフケア」に可能性を見出しています。

参考:産前・産後サポート事業ガイドライン 産後ケア事業ガイドライン|こども家庭庁

セルフケアで産後うつをゼロに

産後うつイベントレポート

産後ケアを産後うつ予防につなげていくためには、「産後」だけに限定せず、長期的な視点で支援を展開していくことが求められます。

村上医師が指摘するポピュレーションアプローチの重要性に加え、大木町の事例が示すように、産前から予防的にサポートし、子育て期を通して「セルフケア」に取り組むことが、親の健やかな暮らしひいては子どもたちの幸福にもつながっていきます。

MELONでは、自治体向けに、産後うつの予防や子育て世代のセルフケア促進を目的としたプログラムを提供しています。地域ごとの課題やニーズに応じて、柔軟かつ実践的な導入提案が可能です。

無料のご案内資料をご用意しておりますので、ぜひ貴自治体でのご検討にお役立てください。ご希望の方には、導入に向けた個別無料相談も承っております。

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