子どもの頃からメンタルケアを学ぶ時代!学校で行われる取り組みの最前線とは

近年、大人だけでなく「子どものメンタルヘルス対策」が急務になっているのをご存じでしょうか?夏休み明けは特に子どもの自殺が増える傾向にあることから、毎年夏の終わりには、自殺予防やいじめ、引きこもりの問題がメディアで大きく取り上げられています。
子どもが健やかに成長し、大人になってからも心の健康を保つためには、子ども自身が幼い頃からメンタルケアの方法を学び実践することが重要です。そこで今回は、児童精神科医の岡 琢哉先生によるスペシャルクラス「子どもがメンタルヘルスについて学ぶ方法」を紹介します。
子どものメンタルヘルスを健全に保つために大人はどのように向き合えばいいのかを解説した上で、学校で行われている具体的な取り組みを解説します。
※本スペシャルクラスのMELON TVでのアーカイブ配信は期間限定で公開されているため、予告なく終了する場合があります。
児童精神科によるメンタルヘルスの分析方法

現代社会では子どもを取り巻く環境が急激に変化しており、児童精神科の定義も複雑化しています。日本児童青年精神医学会が発表している定義を要約すると、児童精神科とは、「子どもが示す問題行動や身体精神症状を検討し、環境や行動などを総合的に評価しながら、子どもの精神的健康の達成を目指すもの」となります。
このように、児童精神科自体は少し難しい概念ですが、現場の児童精神科医は子どものメンタルヘルスについて以下の3つを評価し、医療的介入を行っています。
(1)つまずき:発達レベル・気質及び生物学的背景
子どもが「つまずきやすい性質」を持っているかどうかを評価するため、つまずきやすさを左右する要素をチェックします。例えば以下の2点です。
・成長に伴って獲得する発達のレベルに問題がないか
・気質や生まれつきの性質に特徴がないか
(2)傷つき:家族や友人関係・保育所・学校における行動
家族や友人関係・保育所・学校において、「どのような理由で傷ついているのか」を評価します。つまずきやすい子どもは傷つきやすい子どもでもあるため、つまずきとも大きく関連します。
(3)悪循環:多彩な問題行動や精神身体症状
つまずきと傷つきが重なり、嫌な思いや苦しい思いが続くことで、問題行動や精神・身体症状が出ていないかを評価します。基本的には悪循環の状態に至ると、病院に通う必要が出てきます。
子どものメンタルヘルス問題とその予防

一説では、不安症やうつ病などの精神疾患を抱える子どもは全体の10〜20%にのぼるといわれています。
1クラス30人とすると、3〜6人ほどの子どもがメンタルヘルスに何らかの問題を抱えている計算になるため、子どもがメンタルヘルスの不調を訴えるのは特別なことではなく「当たり前のこと」として大人が認識するのが大切です。
また、何か悪い出来事が起きたときに不安が強くなったり鬱っぽくなるが、診断自体はつかないメンタルヘルスの問題を「subthreshold psychiatric problems(診断基準を満たさない精神医学的問題)」と呼びます。
「病気でないなら我慢して頑張ればいいんじゃないの?」と思われがちですが、放っておくと犯罪傾向が高まったり、社会的成功を収めにくくなったりするなど、成人後にさまざまな悪影響をもたらすことが明らかになっているため対策が必要です。
このような子どものメンタルヘルス問題を予防するためには、子どもにとって身近な大人、特に親や学校の先生が積極的に支援をすることが重要です。ここからは実際に行われている取り組みを紹介します。
学校で実施されているユニバーサルアプローチ

メンタルヘルスの予防に関するアプローチは、上の図のように大きく4段階に分けることができます。
メンタルヘルスのケアにおいては、症状が出る前に予防することも大切で、最近ではすべての人を対象とするユニバーサルアプローチが「レジリエンス(精神的回復力)」を高める手段として注目されています。
ここからは、学校で行われているユニバーサルアプローチの事例を紹介します。
レジリエンスとは何かは「ストレスに強くなる「レジリエンス」をマインドフルネスで育てる方法」で詳しく解説しています。
日本発の心理教育プログラム「Up2-D2」とは?

Up2-D2プログラムは、レジリエンスの向上を目的とした日本発の心理教育プログラムです。不安・抑うつ・感情調整に介入する認知行動療法(CBT)の技法を、漫画を用いたテキストを用いて解説することで、子どもでも理解しやすいよう工夫されています。
漫画には感情調整が苦手な「あかまる」、抑うつ傾向がある「あおすけ」、不安が強い「きみ」、そしてみんなに知恵を授ける「白じい」が登場し、学校で起こるさまざまな問題にどのように対処するかが描かれます。
一回45分、計12回の構成で、座学だけでなくグループワークによる実践も含まれます。授業は専門家ではなく学校の先生が行うので、先生自身のメンタルヘルスに対する知識も向上します。
プログラムの前後に行ったアンケートによって、子どもたちの自己効力感と社会的スキルが上がり、全体的にメンタルヘルスの問題が改善したと判明しています。またプログラム終了後、3か月にわたって効果が持続しました。
子どもたちが楽しみながらメンタルヘルスについての知識を深められるツールとして、非常に注目されているプログラムです。
学校で実施されている「自閉症特性の高い子どもたち」への対応

「自閉症の傾向がある子どもは、一般学級ではなく特別支援学級にいる」というイメージを持たれている方も多いのですが、一般の学級にも自閉症特性の高い子ども達が在籍しています。
また、そういった子ども達はメンタルヘルスの問題を抱えやすいということがわかっています。ここでは自閉症特性の高い子ども達向けのプログラムを紹介します。
自閉症傾向を持つ子どもの不安軽減を目的とした「フレンズ教室」とは?
フレンズ教室とは、自閉症を持つ子ども達に対する集団認知療法プログラムです。4〜5人程度の少人数で実施し、「オリエンテーション」「心理教育」「認知再構成法」「社会的スキル訓練」「応用学習」「まとめ」の7つで構成されます。
一回1時間、計10回の構成になっており、Up2-D2プログラムと比較し、より自閉症の子どもたちに特化した内容になっています。例えば、自閉症によってワーキングメモリー(一時的に情報を脳に保存しておく能力)が低くなる傾向があるため、使用する教材も情報量や文章量を少なくしたり、ルールや仕組みを先に提示するといった工夫がなされています。
フレンズ教室には一定の効果が認められており、プログラム中のみならず、プログラム後も自閉症の子どもたちに生活面での行動変容が見られました。
また、フレンズ教室は保護者が見守る中で行われるため、保護者同士の交流が生まれ、不安が軽減したという声もあり、結果として家庭内での対応に余裕ができたという副次的な効果もありました。
まとめ|子どもの頃からメンタルケアを学ぼう
今回は子どものメンタルケアに大人がどう向き合えばいいか、学校でどのような取り組みが行われているかを解説しました。
子どもがメンタルヘルスの問題を抱えることは特別なことではなく、どの子どもにも起こりうることです。大切なのは「つまずき→傷つき」のループに陥ってしまう前に身近な大人が手を差し伸べ、メンタルケアの方法を身につけさせてあげることです。
子どもが家庭や学校で手軽に行えるメンタルケアとして、「マインドフルネス」もおすすめです。
マインドフルネスとは、現在の瞬間に意識を集中させ、心と脳をときほぐすセルフケアで、教育現場でも取り入れられています。
小学生向けのマインドフルネス瞑想を試したい方は、ぜひこちらの動画をご覧ください。
ご自身でもマインドフルネスを体験してみたい方には、MELONが提供するオンライン・マインドフルネスサービス「MELONオンライン」がおすすめです。
マインドフルネスのクラスはリアルタイムまたはアーカイブ配信をご用意しているので、いつでもどこでも都合の良いタイミングで実践することができます。
まずは、2週間無料で始めてみませんか?
監修者・講師紹介:岡 琢哉先生

児童精神科医。岐阜大学医学部附属病院精神神経科、東京都立小児総合医療センター児童思春期精精神科、医療法人社団神尾陽子記念会 発達障害クリニック、岐阜大学医学系研究科博士課程を経て、現在は株式会社カケミチプロジェクト代表取締役。訪問看護事業、インターネット上の情報発信、放課後デイサービス向け研修事業を展開。