座禅とマインドフルネスの違いとは?歴史や成り立ちを徹底解説
「ネガティブなことばかり考えてしまうのをやめたい」「集中力を上げたい」などの理由から、座禅やマインドフルネスに興味を持ち始めた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、座禅とマインドフルネスは、いずれも座って瞑想をするというイメージがあり、「何が違うのかわからない」「どちらが自分に合っているの?」と悩んでしまう方も多いでしょう。
今回は株式会社MelonのCMOであり、脳科学者で僧侶でもある信楽 慧監修のもと、座禅とマインドフルネスの違いから、定義や歴史・マインドフルネスが向いている人について解説していきます。
座禅とマインドフルネスの違いとは?
座禅とマインドフルネスは、実践する内容は共通していますが、宗教性の有無に違いがあります。
宗教とは、「人間生活の究極的な意味を明らかにし、人間の問題の究極的な解決にかかわりをもつ人々によって信じられている営みを中心とした文化現象」と定義されます。
少し難しい定義ですが、宗教には、人間の究極的な問題を解決するという大きな目標があります。しかし、個々の具体的な問題に焦点を当てるのではなく、全体的な生き方や意味を提供することを目的としています。
例えば、マインドフルネスの「MBSR(Mindfulness-Based Stress Reduction):マインドフルネスに基づくストレス低減法)」という治療法は、ストレスを低減し、うつ病を治すなど医療目的で行われます。
一方、禅は宗教の一部であり、具体的な目標はありません。座禅の目的は「悟りを開くこと」と思われがちですが、実際には「ただ座る」という無目的な訓練です。「ストレス解消」といった具体的な目的を持った時点で、それは宗教ではなくなります。
ただし、座禅とマインドフルネスの実践内容は同一のため、得られる効果は同じとされます。
考え方 | 方法 | |
マインドフルネス | ・MBSRのように医療目的 ・今この瞬間に集中することで、脳の実行機能を回復し高める ・ストレス・不安感を低減し、ウェルビーイングの向上を目指す | ・主に瞑想を通じて実践 ・何か動作をしながらでも実践可能 |
座禅(禅) | ・上記のような目的はなく、無目的に行う | ・ただ座るという修行 |
瞑想で起こる脳の変化については、「瞑想中に脳で何が起きている?マインドフルネス瞑想の効果を脳科学者が解説!」で詳しく解説しています。
出典:宗教と学問(2):宗教は危ない!?|東京大学 学術俯瞰講義
禅(座禅)の定義と起源
次に「禅」という言葉の起源を探ってみましょう。また、どのように禅から座禅や禅宗が誕生し、現代の禅ブームにつながったのかもみていきます。
禅の語源は「静慮(せいりょ)」
「禅」という言葉は、サンスクリット語の「dhyana(ディヤーナ)」や、パーリー語の「jhana(ジャーナ)」を漢字で表した「禅那(ぜんな)」が語源とされています。「禅那」は仏教において、心が動揺することのない一定の状態で、「静慮(せいりょ)」とも訳されます。
ここから座禅とは、座ることで身・息・心を統一する、または統一しつつある状態を指すようになりました。
参考:坐禅入門|臨済宗臨黄ネット
禅宗の起源と歴史
では、仏教のエッセンスである「禅」はどのように「禅宗」という仏教の宗派になったのでしょうか。
紀元前5〜6世紀、釈迦がインドで仏教を開きました。その釈迦の教えをインドから中国に伝えたのが、仏教の高僧である菩提達磨(ぼだいだるま)です。彼は中国に座禅を広め、それが禅宗の基となりました。
禅宗とは、禅を根本とする仏教の一派です。座禅による修行を重んじており、日本には「臨済宗」「曹洞宗」「黄檗宗(おうばくしゅう)」の3宗派があります。なお、禅宗には経典がなく、文字を介さずに心を伝えてきた点が仏教のほかの宗派とは異なっています。
禅・座禅・禅宗の違い
禅・座禅・禅宗という言葉は混同されてしまうこともありますが、正確には違いがあります。それぞれの言葉の意味をまとめると以下のようになります。
禅 | 仏教において、心が動揺することのない一定の状態 |
座禅 | 座って瞑想することで禅の状態を目指す仏教の修行法のひとつ |
禅宗 | 仏教の一派で、仏教の真髄は座禅によって体得されると考える |
参考:禅とは?|臨済宗 円覚寺派 大本山 円覚寺
現代における禅・座禅
現代では、仏教を信仰するアジアのみならず、欧米でも禅がブームとなっています。Appleの共同創設者であるスティーブ・ジョブズ氏が支持していたことでも有名です。
現代の禅には、大きく分けて宗教的なものと医療的なものの2つのアプローチがあります。
ティク・ナット・ハン氏の宗教的アプローチ
ティク・ナット・ハン氏は、キング牧師の推薦によりノーベル平和賞候補にもなったベトナム出身の僧侶です。史上最も名を知られた禅僧の一人であり、西洋社会にマインドフルネスを紹介したことで広く知られています。
ジョン・カバットジン博士の医療的アプローチ
ジョン・カバットジン博士は、米国マサチューセッツ大学医学部の名誉教授であり、同大学のマインドフルネスセンターの創設者です。また、ケンブリッジ禅センターの創設メンバーでもあります。
カバットジン博士は、禅僧のもとで仏教瞑想やヨガを実践し、その効果を実感。これを医療に役立てようと考え、「MBSR(Mindfulness-Based Stress Reduction:マインドフルネスに基づくストレス低減法)」を確立しました。彼は宗教的なものと思われていた瞑想の効果を科学的に実証しました。
いずれのアプローチも、無になることというイメージが強く持たれています。これは禅の語源である「禅那」が意味する「静慮」のイメージからきているものと考えられます。
特に欧米でブームになっている「禅」はストレス解消や生産性の向上のためのテクニック的な要素が強く、具体的な目的を持って行われることが多いので、「マインドフルネス」と同じ意味で使用されているケースが多いです。
アメリカの書店では「ZEN」コーナーが設けられ、日本でも観光客向けに座禅体験が提供されるなど、現代の禅はビジネス・ブランドとして成長しています。
参考:Shreya Wagh-Gumaste(2022). Influence of Hindu Spiritual Teachers on Mindfulness-Based Stress Reduction (MBSR) of Jon Kabat-Zinn:Focusing on the Teachings of Sri Nisargadatta Maharaj and Sri Ramana Maharshi. International Journal of South Asian Studies, 12.
参考:岡島 秀隆 (2003).【研究会】アメリカ社会と禅仏教. 禅研究所紀要, 32巻.
参考:輝元 泰文(2021). 現代の禅のグローバル化に関する研究動向. 東京大学宗教学年報, 38巻.
マインドフルネスの定義と起源
続いて、マインドフルネスの起源と歴史を探ってみましょう。また、マインドフルネスが向いている人についても解説します。
マインドフルネスは「今この瞬間」に意識を向け続けること
マインドフルネスの正式な定義は「今この瞬間の経験や思考に、評価や判断をせずに意識的に注意を向けることにより表れる気づき」とされています。
後悔や未来の不安などを無意識に考えてしまうことはよくありますが、それが極端になると「うつ病」や「不安症」につながってしまいます。
マインドフルネスは「今ここ」に意識を向けることで、このような余計な感情から解放され、ストレス解消を図るための科学的なアプローチです。
マインドフルネスをもっと深く知りたい方は、「マインドフルネスとは? 〜 マインドフルネスの全てを体系的に解説 〜」の記事をご覧ください。
マインドフルネスの起源と歴史
マインドフルネスの語源は諸説ありますが、元々パーリ語の仏教用語である「サティ(Sati)」の英訳といわれています。サティとは仏教の修行体系の一部で、「覚えていること、心にとどめておくこと、記憶しておくこと、思い出すこと」を意味します。
このようにマインドフルネスは仏教と深い関連がありましたが、現代においては、上述のカバットジン博士がその効果を科学的に実証したことがきっかけでブームとなりました。
これにより、マインドフルネスは当初欧米の文化人の間で取り入れられ、企業の研修にも取り入れられるほど生活に浸透していきました。
マインドフルネスの起源と歴史については以下の記事で詳しく解説しています。
マインドフルネスはストレスケアを求める人におすすめ
マインドフルネスはストレスケアを求める人に最適なアプローチです。
前述のとおり、座禅もマインドフルネス瞑想と同様の内容を実践しており、その効果も同様です。
しかし、マインドフルネスには明確な「メンタルヘルスの改善」という目的があり、医療分野でも取り扱われているため論文も多数存在します。科学的に効果が実証された方法を試したい方にはマインドフルネスをおすすめします。
こちらの記事では、基本的なものから日常で取り入れやすいものまで、さまざまなマインドフルネス瞑想のやり方を動画を交えて紹介しています。
まとめ|座禅とマインドフルネスの違い
今回は座禅とマインドフルネスの違いについて詳しくご紹介しました。
いずれも実践する内容は同じですが、目的があるかどうかに違いがあります。また、マインドフルネスは医療目的で行われることから、より科学的なアプローチがなされています。
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