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【Dr.久賀谷の読むマインドフルネス】旅とマインドフルネス 〜中・東欧編〜

久賀谷亮 イェール大学 医学博士 UCLA 非常勤医 カイザー

MELONシニア・アドバイザーの「久賀谷亮先生」のコラム連載 “読むマインドフルネス”、今回は第6回目のテーマ「旅とマインドフルネス 中・東欧編」になります。

それでは、お楽しみ下さい。

久賀谷 亮
MELONシニア・アドバイザー/医師(日・米医師免許)医学博士

日本で臨床および精神薬理の研究に取り組んだ後、イェール大学で先端脳科学研究に携わり、臨床医としてアメリカ屈指の精神医療の現場に従事する。カイザーグループ、ロングビーチ・メンタルクリニック常勤医、ハーバー UCLA 非常勤医などを経てロサンゼルスにて「 TransHope Medical, Inc. 」を開業。同院長として、マインドフルネス認知療法や TMS 磁気治療など、最先端の治療を取り入れた診療を展開。臨床医として日米で 25 年以上のキャリアを持つ。著書・講演・セミナー・監修や、脳科学に基づくマインドフルネス休息法のインフルエンサーとして尽力を注ぐ。


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パーソナルな旅で味わえるもの

中欧から東欧に向かう機会がありまして、その旅のマインドフルさについて書きます。

旅を観光地ガイドから解き放つ一つの方法は、それをパーソナルなものにすることだと思っています。

チェコで旅を味わう

チェコを訪れると、プラハの要所はすぐに見て回れます。果たしてそれでチェコをセーバリング(味わう)できたかというと、そうは言い難いでしょう。私はなるべく、その地に根ざした方に入口を提供してもらいます。

人迷惑な話かもしれませんが、前の同僚にチェコ出身の方がいたので、その方にお願いして、プラハ近郊の育った街を案内してもらいました。それもその方はチェコにいなかったので、ご両親にお願いするという恐縮な形になり、ですがおかげでチェコの少し深いところに触れることが出来ました。

育った家の庭には、小さな小屋があり、子供時代遊び場だったこと、鶏が毎朝卵を産んでいた場所、屋根の上で親子が過ごしたこと、目にし耳にする話は当時を鮮明に思い起こさせるのでした。

実はその同僚とは数年間仕事を共にしたにもかかわらず、その人の背景をあまり知り得ませんでした。ただ、働き者で、ハリウッド映画で観たチェコ人の勤勉さと重ねあわせるのがせいぜいでした。

今回垣間見たその人のルーツは、人物を鮮明にし、そしてこの土地の素顔を初めて覗かせてくれたのでした。

プラハのパーソナルな旅

その小さな街にも、コミュニズムは土足であがり、何人かの死者と、町の広場に戦車の痕跡を残していました。当時は、労働は国家への義務であり、一生で35年間働かなければ牢屋行きだったという話は、なかなか聞けない史実です。

後述するハンガリー同様、共産圏であった過去は、その国のその後に影響を残していると感じます。出会った、チェコとスロバキアそれぞれ出身のカップルが、もう当時のようなことが起きることはないよ、と力強く言ったのは、そうであってほしいと願わせ、そういえば、日本にも近隣で今なお人工的な境界で隔てる地があることを思い起こさせました。

今ここで感じる歴史

もう一つの「解き放つ」方法は、チェコで、モルダウ川を見ながら使いました。チェコの作曲家、スメタナのわが祖国、モルダウ川を聴きながら、まさにその流れに意識を向けるのです。そこに感じたものは、言葉では表現できませんが、今そこにしかないものでした

公園で感じた今ここ

次に訪れたオーストリアでは、ベートーベン博物館の近くにある無名の公園を通り過ぎた時でした。緑が生い茂る中、交響曲7番を聴くのは格別でした。アメリカのメイン州を運転しながら、スティーブン・キングの小説を聞いた時の感慨を思い出しました。

時間はいたずらです。マインドフルネスは、突き詰めるところ、無常さと付き合う素晴らしい術(すべ)なのではと最近思っています。この限られた人生の時間で、私たちは何をやっているのでしょう。

ある教会のパイプオルガンの前に、モーツァルトが座って演奏したことがあること、ウイーン歌劇場で、モーツアルトが立った指揮台の空間を感じた時、ベートーベンが亡くなった際、皆が欲しがって無くなってしまった彼の髪の毛の一部を目の当たりにした時。時間の1ページに想いを馳せ、リンクした時に、はじめて時間を味わえた気がします。過去が現在と交わった瞬間です。

心に刻まれる人とのふれあい

列車で人とのふれあい

ウィーンは近代都市でしたので、土地の味を求めて、東欧に紛れ込み、道に迷うため、ハンガリーのブタペストへ日帰り旅をしました。カフェ発祥の豪華なカフェ、ブダ城、これらの国にまたがるガルーシュという郷土料理、など、どれも素晴らしいのですが、一番心に残ったのは、列車で乗り合わせた、ウィーンで勉強していて、ホームタウンに帰る途中という大学生たちとの会話でした。

ハンガリーの政治が独裁色が強くなり、次の投票が大事という熱弁、かつてハンガリーとオーストリアを隔てる柵があったこと、若くして祖国を思う、そしてほとばしる話は、どんな観光地を訪れるより心に刻まれるのでした。

そういえば、ウィーンでも、歌劇場で会ったオーストリア人が親切に席を譲ってくださり、オペラ談義に花が咲きました。振り返ると、どの土地でも、そんな人とのふれあいが、何よりも一番記憶に残っているのでした。